2024年度|和歌山県和歌山市 雑賀崎・田ノ浦|調査・設計提案
和歌浦や紀ノ川の豊かな自然資源を背景に、平安時代から名勝地として地位を確立してきた和歌山県和歌山市。
和歌山城から車で約15分の距離に位置する雑賀崎・田ノ浦地区は、漁村集落として発展し、特徴的な地形と密集する家屋が織りなす景観により、現在では観光地としても広く認知されている。
本研究では、7月に実施した最初の現地調査において、集落内の観察とともに、住民への聞き取り調査を行った。
特に、雑賀崎で漁業を営む傍ら一棟貸し旅館「新七屋」を経営する、池田佳祐氏へのインタビューでは、地域の空き家問題やペスカツーリズムの可能性に関して有益な知見を得ることができた。
また、デザインサーベイの一環として、レーザースキャナーを用いた点群データの取得を実施した。主要な通りを中心に約600箇所をスキャンし、複雑な地形を有する集落の全体像を三次元的に記録することに成功した。
調査を通じて明らかになったのは、住民同士が偶発的に出会い、会話を交わすような「小さな居場所」の存在が、地域の日常的なつながりにおいて重要な役割を果たしているという点である。
この視点を踏まえ、集落内に点在する12箇所を選定し、『日常の波止場』と題して、地域の将来的な構想に関する提案を行った。
さらに、狭隘な路地や急斜面における建材運搬の実現性を検証するため、点群データを用いたシミュレーションを実施した。設計規模の決定においてもデータに基づく検討を行い、より現実的な提案となるよう配慮した。
11月には再度現地を訪れ、雑賀崎集落内にある極楽寺の堂内にて、住民向けの設計プレゼンテーションを実施した。
模型展示に加え、点群データ上に設計案を統合したVRコンテンツを用いることで、住民が設計内容を仮想的に体験できるものとした。
これらの取り組みは、9大学が各地で調査および提案を行う国際ワークショップ「IUW 2024」ならびに、東京藝術大学内の地域連携型プロジェクト「I LOVE YOUプロジェクト」の一環として実施したものである。